Saki's Draft Note
紗姫の草稿集/少女拾遺小説
Entries
1
その娘とはとても印象的な娘だった。
ある5月の月曜日の朝礼で、わたし保科るり(ほしな るり)9歳はいつものように最前列に並んでいた。だってわたしが一番背が低いんだもの、しょうが無い。出席番号順にでもすれば後の方になるんだけど……。先生もすぐ前にいるし、ちゃんとしてなくてはいけないから朝礼は疲れる……嫌だ。だが、今日はいつもの朝礼と少し違った。担任の先生の隣に、やたら背の高い眼鏡っ娘がひょろりと立っていた。乱暴にまとめたくせっ毛のツインテールは、髪がもつれて、なんだか2つの『たわし』が付いてる様に思えた。(転校生か……)つい、目が合ってしまい、バツが悪くなって目を反らした。なんか転校生を一瞥してしまったみたいな感じになって、少し自己嫌悪になった。
教室に戻ると、案の定あの子が先生に付いて教室にやって来た。男子達は色めき立ってる。外で見るよりずっと背が高い。クラスの一番大きい男子より高いかも知れない。まるでキリンの子どもが教室に入って来た様な感じだった。眼鏡をかけた子キリンは、眼鏡の度が高いせいか、眼が大きく見えてなんだかわたしには宇宙人が立っている様にも見えた。
「はーい、皆さん静かに!」先生がみんなを制した。
「今日から皆さんと一緒に勉強することになった松本美樹(まつもと みき-10歳)さんです。美樹さん自己紹介を、名前、黒板にも書いてね」
美樹ちゃんはチョークを持つと、思い切り黒板に突き立てた。ぽきん!と音が教室に響き、チョークの先が少し折れてしまった。美樹ちゃんは折れたチョークを気にせずにそのまま書き始めた。折れたせいでチョークの線が二重になった。さすがに背が高いせいで、黒板のど真ん中ら辺に美樹ちゃんの名前が繊細で綺麗な字で書かれた。
「松本美樹と言います。となりの◯◯町から転校してきました。どうぞよろしくお願いします」
「松本さんは眼があまり見え難いので一番前の席にしますからね、じゃ、るりちゃんの隣でいいかしら」
先生はそう言うと美樹ちゃんをわたしの隣の席に座らせた。予想していなかったので少し驚いたが、よく考えてみれば、眼が悪いのだから前の席に来るのは当然だろう。
「よろしくね、えっと……」
美樹ちゃんはまさに牛乳瓶の底の様な眼鏡でわたしを見下ろしながら挨拶した。
「…る、るりです。わたし、保科るりです、よ、よろしく」
こうしてクラスの中で一番背の小さいのと高いのが隣の席になったのだった。
2
その日のお昼休み、先生に言いつけられて、美樹ちゃんを校舎案内に連れ出すことになった。
「この学校はね、入り口が3つあるんだよ。校舎の両脇に2つ。それと、あの真ん中のまあるくなってるとこからも出られるんだけど、下駄箱が無いから普通は使わないの」
「ふーん」
「で、まあるい所には大きな中央階段があって、そこを通ればどの階にも早くいけるわ。校舎の端と端にも階段は有るけどね。そっちは遠いし狭いんだよ」
「図書館ってどこに有るの?」
(あ、本が好きなんだ美樹ちゃんって)
「図書館はね4階の西校舎の一番突き当たり、美術室とお向かいさんよ」
「今、行ってみてもいい?」
「うん、いいよ。どうせお昼休みの内に校舎、全部回れないし」
「あたし、本が好きだから目が悪くなったんじゃないのよ」
「え?」
予想外の事を話されて少しビックリした。
「みんな聞いてくるのよね。先生にも聞かれたし」
(……そうなんだ……)
「あたしのうちの人みんな目が悪いのよ。遺伝なんだって」
「遺伝?……」
「生まれつきって事よ」
「ふーん」
(わたしは思わず背が高いのも遺伝のせいなのって聞きそうになったけど、失礼なんであわてて止めた。)
「治すには手術しなきゃ行けないんだって」
「手術!?、大変なんだ。どれくらい見えないの?」
「眼鏡しててもあまり見えないけど、取ると全然見えないの。目の前の人の顔も見えないわ。まあ、慣れてるけどね」
そんな話をしながら4階に付くとおかしなコンビの2人は図書館に向かった。
3
美樹ちゃんは早速、新規手続きを済ませると、本棚を物色し始めた。何か、美樹ちゃんってマイペースだな…と思いながら、わたしも久しぶりに図書館へ来たんだからと何か無いかと本棚の間を歩き回ってみた。そのまま予鈴がなるまで2人とも好きに歩き回って本を探し、美樹ちゃんはいきなり3冊、わたしは1冊選んで本を借り、教室に戻った。
放課後になった。美樹ちゃんに校舎探索続けるか聞いたら、是非にと言う事だったので、再び回り始めた。せっかくだから、校舎に伝わる怪談話を混ぜてあげた。
「はい、ここが美術室。美術の時間以外は美術クラブのたまり場です。しかし、夜になると、ほら、デッサン用の白い石膏像があるでしょ?あれが前の日と位置が変わってたりするんだって。凄い時は、左右入れ違ってたりするって言う〜!」
「へえ〜、白いから分り難いんだわね。像に目印付けとけば動いたかどうかハッキリするわよ」
美樹ちゃんは平気な顔して言った。あたしは気を取り直して、
「……では、次行ってみよう!階段上がって、この5階の一番奥が、音楽室。音楽では音を出すから、校舎の一番端な訳ね。で、ここの階段、時々、階段の数が変わるのよ。12段だったり13段だったり〜!」
「最初の階段数えるかどうかってとこかしら?」
(う〜ん、美樹ちゃん乗って来ないなあ……冷静だわ)
「……さ、音楽室に着きました!中にはおっきなグランドピアノ!しか〜し、ここの防音扉はこんなに狭い。どうやって入れたんでしょうか??」
(さあ、どうだ!)
「そうね、扉と壁塞ぐ前に入れたんじゃないのかしらね?出す時がむしろ見物ね」
(うっく、そうだったのか〜それは思いつかなかったじゃ〜)
「ねね、なんで美樹ちゃんってそんなに分るの?」
「別にたいして分るわけでは無いと思うけど、冷静に考えればいいんじゃないかな?」
「はあぁ…冷静にね。美樹ちゃんは怖い事とか、ビックリした事無いの?」
「そりゃ、あるわよ。月に人間が行ったとか、もの凄く驚いたわよ」
(はは…、そっちね)
「そう言えば、今日本3冊も借りてたみたいだけど、何の本借りたの?良かったら教えて?」
「アトムの話、世界の雑学、時間の不思議」
「アトムなら知ってるわ、鉄腕アトムでしょアニメ観てたもん」
「そっちじゃないわよ、原子の事よアトムって、ふふふ、アニメですって」
「あ、バカにしたなー!アニメバカにすると許さないんだからー」
「してないわよ〜、だけど嬉しそうに言うから何か可愛いなって思ったの」
(え?)わたしは急に恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。
「か、可愛いなんて……」
わたしは恥ずかしくて何ていったらいいか分らなくなり、あさっての方向を向いてしまった。
「ね、るりちゃん?私たちお友達になりましょ?ね、いいでしょ?」
「え?……う、うん。いいけど……」
急な言葉にまたビックリしてしまった。
「じゃ、決まりね、お友達っと!」
美樹ちゃんは急にあたしの手をぎゅっと握手して、子どもみたいに振り始めた。美樹ちゃんの手は細くて骨張っていて指が長くて、しっとりとしていた。その感触だけはいつまでも忘れられない様な気がした。
4
次の日、ホームルームで美樹ちゃんに先生が言った。
「松本さんもなにか委員会活動に入ったらいいと思うんだけど、どこがいいですか?」
わたしは興味津々、耳が兎の様になって美樹ちゃんの言葉を待った。
「えーっと、放送委員会がいいです。機械とか好きだから技術の方で」
何と!?意外や意外。放送委員会とはっ!しかも機械が好きという事はアナウンサーじゃなく技術担当?クラスの男子もまた、お〜っと、どよめいた。
「松本さん、大丈夫?技術の方は男子ばっかりですよ」
「全然平気です。むしろアナウンサーの方が向いてないので」
「わ、わかりました。先生から顧問の先生に伝えておきますね」
放課後、美樹ちゃんは委員会の集まりが有り、わたしも他の用事で遅くなって下校が一緒になった。
「美樹ちゃんって、機械好きだったんだ。難しく無いの?」
「機械の方が確かで面白いわよ。命令通り動くのとか好きだし。パパも機械好きなんだよね」
「そうなんだ。あたしは全然ダメ、ビデオの予約は弟に任せっきりだし、父さんも当てになんないわ」
「ねえ、るりちゃん?お昼の放送当番の日に給食持って来てもらうの、るりちゃんに頼んでいい?」
「え!うん!いいよいいよ、あたし持ってく」
わたしはそんな大人びて見える美樹ちゃんに、逆に頼りにされたのがなんか嬉しかったので、はしゃいで引き受けた。
「明日早速当番なの。お願いねー!」
「まかせとけって〜!」
次の日、美樹ちゃんの為に給食を持って、放送室へ行くと、驚くべき光景を目の当たりにした。ふつう、上級生の技術担当が機械操作をしてレコード回したり下級生が手伝ったりするもんだが、いま、ここでは全く違っていて、美樹ちゃんがすべてを取り仕切っていた。
「…はい、レコード用意はいい?回転数間違えないでね。テープはチェンジした?頭出てるわよね、OK。じゃ、次のアナウンス行くわよ『クラスレポート』タイトルコールの所からね。…はい、レコードスタート!…アナウンス用意…3、2、1、どうぞ!」
『♪〜〜皆さんこんにちわ〜!クラスレポートの時間です。今日取り上げるクラスは5年3組……』
わたしは委員達が忙しく立ち振る舞う副調整室の片隅で口をあんぐりと空いたまま、給食のお盆を落としそうになるのを必至に堪えながら、まさしく驚いていた。(これじゃ、まるでプロじゃん……)
あまりの手際の良さと、堂に入った采配に自分と同学年とはまるで思えず、むしろ誇らしく思った。(美樹ちゃんってカッコいいかも〜)
教室に戻って、お昼の放送のつづきを聞くとその凄さがよく判った。見事なタイミング、切れの良さ、いつもはたどたどしいアナウンサーの娘も今日はまるで本物っぽく聞こえてくる。そして素晴らしいエンディング。そして、この日の放送はいつまでも語りぐさになった。何しろ、生徒も先生も思わず聞き入り、食べるのがすっかり遅くなってしまい、片付ける時間がお昼休みに食い込んでしまったぐらいだったのだ。
それからは美樹ちゃん担当の、水曜日のお昼の放送をみんな待ちこがれる様になった。さらに、美樹ちゃんが企画した番組、『レコードコンサート』も大好評だった。リクエストする代わりに、かけてもらいたいレコードを持ってくると(先生の審査はあったが)美樹ちゃんの権限で大抵かけてもらえる。それで、みんなこぞって色んなレコードを持って来た。テレビのヒット曲や、ごひいきタレントの曲。クラシックの時もあればポップスやロックの時も。たまに先生が意外な曲を持って来たりして。もちろん生徒だけでなく先生にも受けていた。ホントに楽しいお昼のひと時だった。
2/2へつづく
その娘とはとても印象的な娘だった。
ある5月の月曜日の朝礼で、わたし保科るり(ほしな るり)9歳はいつものように最前列に並んでいた。だってわたしが一番背が低いんだもの、しょうが無い。出席番号順にでもすれば後の方になるんだけど……。先生もすぐ前にいるし、ちゃんとしてなくてはいけないから朝礼は疲れる……嫌だ。だが、今日はいつもの朝礼と少し違った。担任の先生の隣に、やたら背の高い眼鏡っ娘がひょろりと立っていた。乱暴にまとめたくせっ毛のツインテールは、髪がもつれて、なんだか2つの『たわし』が付いてる様に思えた。(転校生か……)つい、目が合ってしまい、バツが悪くなって目を反らした。なんか転校生を一瞥してしまったみたいな感じになって、少し自己嫌悪になった。
教室に戻ると、案の定あの子が先生に付いて教室にやって来た。男子達は色めき立ってる。外で見るよりずっと背が高い。クラスの一番大きい男子より高いかも知れない。まるでキリンの子どもが教室に入って来た様な感じだった。眼鏡をかけた子キリンは、眼鏡の度が高いせいか、眼が大きく見えてなんだかわたしには宇宙人が立っている様にも見えた。
「はーい、皆さん静かに!」先生がみんなを制した。
「今日から皆さんと一緒に勉強することになった松本美樹(まつもと みき-10歳)さんです。美樹さん自己紹介を、名前、黒板にも書いてね」
美樹ちゃんはチョークを持つと、思い切り黒板に突き立てた。ぽきん!と音が教室に響き、チョークの先が少し折れてしまった。美樹ちゃんは折れたチョークを気にせずにそのまま書き始めた。折れたせいでチョークの線が二重になった。さすがに背が高いせいで、黒板のど真ん中ら辺に美樹ちゃんの名前が繊細で綺麗な字で書かれた。
「松本美樹と言います。となりの◯◯町から転校してきました。どうぞよろしくお願いします」
「松本さんは眼があまり見え難いので一番前の席にしますからね、じゃ、るりちゃんの隣でいいかしら」
先生はそう言うと美樹ちゃんをわたしの隣の席に座らせた。予想していなかったので少し驚いたが、よく考えてみれば、眼が悪いのだから前の席に来るのは当然だろう。
「よろしくね、えっと……」
美樹ちゃんはまさに牛乳瓶の底の様な眼鏡でわたしを見下ろしながら挨拶した。
「…る、るりです。わたし、保科るりです、よ、よろしく」
こうしてクラスの中で一番背の小さいのと高いのが隣の席になったのだった。
2
その日のお昼休み、先生に言いつけられて、美樹ちゃんを校舎案内に連れ出すことになった。
「この学校はね、入り口が3つあるんだよ。校舎の両脇に2つ。それと、あの真ん中のまあるくなってるとこからも出られるんだけど、下駄箱が無いから普通は使わないの」
「ふーん」
「で、まあるい所には大きな中央階段があって、そこを通ればどの階にも早くいけるわ。校舎の端と端にも階段は有るけどね。そっちは遠いし狭いんだよ」
「図書館ってどこに有るの?」
(あ、本が好きなんだ美樹ちゃんって)
「図書館はね4階の西校舎の一番突き当たり、美術室とお向かいさんよ」
「今、行ってみてもいい?」
「うん、いいよ。どうせお昼休みの内に校舎、全部回れないし」
「あたし、本が好きだから目が悪くなったんじゃないのよ」
「え?」
予想外の事を話されて少しビックリした。
「みんな聞いてくるのよね。先生にも聞かれたし」
(……そうなんだ……)
「あたしのうちの人みんな目が悪いのよ。遺伝なんだって」
「遺伝?……」
「生まれつきって事よ」
「ふーん」
(わたしは思わず背が高いのも遺伝のせいなのって聞きそうになったけど、失礼なんであわてて止めた。)
「治すには手術しなきゃ行けないんだって」
「手術!?、大変なんだ。どれくらい見えないの?」
「眼鏡しててもあまり見えないけど、取ると全然見えないの。目の前の人の顔も見えないわ。まあ、慣れてるけどね」
そんな話をしながら4階に付くとおかしなコンビの2人は図書館に向かった。
3
美樹ちゃんは早速、新規手続きを済ませると、本棚を物色し始めた。何か、美樹ちゃんってマイペースだな…と思いながら、わたしも久しぶりに図書館へ来たんだからと何か無いかと本棚の間を歩き回ってみた。そのまま予鈴がなるまで2人とも好きに歩き回って本を探し、美樹ちゃんはいきなり3冊、わたしは1冊選んで本を借り、教室に戻った。
放課後になった。美樹ちゃんに校舎探索続けるか聞いたら、是非にと言う事だったので、再び回り始めた。せっかくだから、校舎に伝わる怪談話を混ぜてあげた。
「はい、ここが美術室。美術の時間以外は美術クラブのたまり場です。しかし、夜になると、ほら、デッサン用の白い石膏像があるでしょ?あれが前の日と位置が変わってたりするんだって。凄い時は、左右入れ違ってたりするって言う〜!」
「へえ〜、白いから分り難いんだわね。像に目印付けとけば動いたかどうかハッキリするわよ」
美樹ちゃんは平気な顔して言った。あたしは気を取り直して、
「……では、次行ってみよう!階段上がって、この5階の一番奥が、音楽室。音楽では音を出すから、校舎の一番端な訳ね。で、ここの階段、時々、階段の数が変わるのよ。12段だったり13段だったり〜!」
「最初の階段数えるかどうかってとこかしら?」
(う〜ん、美樹ちゃん乗って来ないなあ……冷静だわ)
「……さ、音楽室に着きました!中にはおっきなグランドピアノ!しか〜し、ここの防音扉はこんなに狭い。どうやって入れたんでしょうか??」
(さあ、どうだ!)
「そうね、扉と壁塞ぐ前に入れたんじゃないのかしらね?出す時がむしろ見物ね」
(うっく、そうだったのか〜それは思いつかなかったじゃ〜)
「ねね、なんで美樹ちゃんってそんなに分るの?」
「別にたいして分るわけでは無いと思うけど、冷静に考えればいいんじゃないかな?」
「はあぁ…冷静にね。美樹ちゃんは怖い事とか、ビックリした事無いの?」
「そりゃ、あるわよ。月に人間が行ったとか、もの凄く驚いたわよ」
(はは…、そっちね)
「そう言えば、今日本3冊も借りてたみたいだけど、何の本借りたの?良かったら教えて?」
「アトムの話、世界の雑学、時間の不思議」
「アトムなら知ってるわ、鉄腕アトムでしょアニメ観てたもん」
「そっちじゃないわよ、原子の事よアトムって、ふふふ、アニメですって」
「あ、バカにしたなー!アニメバカにすると許さないんだからー」
「してないわよ〜、だけど嬉しそうに言うから何か可愛いなって思ったの」
(え?)わたしは急に恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。
「か、可愛いなんて……」
わたしは恥ずかしくて何ていったらいいか分らなくなり、あさっての方向を向いてしまった。
「ね、るりちゃん?私たちお友達になりましょ?ね、いいでしょ?」
「え?……う、うん。いいけど……」
急な言葉にまたビックリしてしまった。
「じゃ、決まりね、お友達っと!」
美樹ちゃんは急にあたしの手をぎゅっと握手して、子どもみたいに振り始めた。美樹ちゃんの手は細くて骨張っていて指が長くて、しっとりとしていた。その感触だけはいつまでも忘れられない様な気がした。
4
次の日、ホームルームで美樹ちゃんに先生が言った。
「松本さんもなにか委員会活動に入ったらいいと思うんだけど、どこがいいですか?」
わたしは興味津々、耳が兎の様になって美樹ちゃんの言葉を待った。
「えーっと、放送委員会がいいです。機械とか好きだから技術の方で」
何と!?意外や意外。放送委員会とはっ!しかも機械が好きという事はアナウンサーじゃなく技術担当?クラスの男子もまた、お〜っと、どよめいた。
「松本さん、大丈夫?技術の方は男子ばっかりですよ」
「全然平気です。むしろアナウンサーの方が向いてないので」
「わ、わかりました。先生から顧問の先生に伝えておきますね」
放課後、美樹ちゃんは委員会の集まりが有り、わたしも他の用事で遅くなって下校が一緒になった。
「美樹ちゃんって、機械好きだったんだ。難しく無いの?」
「機械の方が確かで面白いわよ。命令通り動くのとか好きだし。パパも機械好きなんだよね」
「そうなんだ。あたしは全然ダメ、ビデオの予約は弟に任せっきりだし、父さんも当てになんないわ」
「ねえ、るりちゃん?お昼の放送当番の日に給食持って来てもらうの、るりちゃんに頼んでいい?」
「え!うん!いいよいいよ、あたし持ってく」
わたしはそんな大人びて見える美樹ちゃんに、逆に頼りにされたのがなんか嬉しかったので、はしゃいで引き受けた。
「明日早速当番なの。お願いねー!」
「まかせとけって〜!」
次の日、美樹ちゃんの為に給食を持って、放送室へ行くと、驚くべき光景を目の当たりにした。ふつう、上級生の技術担当が機械操作をしてレコード回したり下級生が手伝ったりするもんだが、いま、ここでは全く違っていて、美樹ちゃんがすべてを取り仕切っていた。
「…はい、レコード用意はいい?回転数間違えないでね。テープはチェンジした?頭出てるわよね、OK。じゃ、次のアナウンス行くわよ『クラスレポート』タイトルコールの所からね。…はい、レコードスタート!…アナウンス用意…3、2、1、どうぞ!」
『♪〜〜皆さんこんにちわ〜!クラスレポートの時間です。今日取り上げるクラスは5年3組……』
わたしは委員達が忙しく立ち振る舞う副調整室の片隅で口をあんぐりと空いたまま、給食のお盆を落としそうになるのを必至に堪えながら、まさしく驚いていた。(これじゃ、まるでプロじゃん……)
あまりの手際の良さと、堂に入った采配に自分と同学年とはまるで思えず、むしろ誇らしく思った。(美樹ちゃんってカッコいいかも〜)
教室に戻って、お昼の放送のつづきを聞くとその凄さがよく判った。見事なタイミング、切れの良さ、いつもはたどたどしいアナウンサーの娘も今日はまるで本物っぽく聞こえてくる。そして素晴らしいエンディング。そして、この日の放送はいつまでも語りぐさになった。何しろ、生徒も先生も思わず聞き入り、食べるのがすっかり遅くなってしまい、片付ける時間がお昼休みに食い込んでしまったぐらいだったのだ。
それからは美樹ちゃん担当の、水曜日のお昼の放送をみんな待ちこがれる様になった。さらに、美樹ちゃんが企画した番組、『レコードコンサート』も大好評だった。リクエストする代わりに、かけてもらいたいレコードを持ってくると(先生の審査はあったが)美樹ちゃんの権限で大抵かけてもらえる。それで、みんなこぞって色んなレコードを持って来た。テレビのヒット曲や、ごひいきタレントの曲。クラシックの時もあればポップスやロックの時も。たまに先生が意外な曲を持って来たりして。もちろん生徒だけでなく先生にも受けていた。ホントに楽しいお昼のひと時だった。
2/2へつづく
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